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世界のボートシーン

ここ数年は年に1回程度、プレジャーボート雑誌関連の取材に絡んで海外出張をしている。2019年9月、南フランスのリゾート地カンヌを訪れた。1977年以来、毎年9月に開催されているボートショーCannes Yachting Festival(2019年9月10〜15日)を取材するためだ。実は出発直後に予想外のトラブルに見舞われた。ご存知の通り9月6日に台風15号が関東地方を直撃。台風一過の中、クルーが間に合わずに搭乗予定だった便が飛ばず「成田難民」の1人となってしまった。結局、当初の予定から遅れること48時間後にカンヌにたどり着いた。Cannes Yachting Festivalはフランスに限らずヨーロッパ(すなわち世界)でも有数のボートショーの一つだ。カンヌの翌々週に開催されるMonaco Yacht Showや例年11月に行われるFort Lauderdale International Boat Showなどに比べると比較的小さめのプレジャーボートが多く展示されるが、あくまでも比べればの話。ふつうに100フィートオーバーのボートがずらりと並ぶ。また単純に規模だけで言えば、1月〜2月に行われるデュッセルドルフ(boot Düsseldorf)やマイアミ(Miami International Boat Show)のボートショーの方が巨大ではある。デュッセルドルフは陸上展示だが、あまりにも規模が巨大すぎて2日、3日ですべてを見るのはとても不可能なショーである。またマイアミは陸上と海上展示に分かれるが、こちらも広大。なかなか1日、2日で全容を把握できない。

一方、Cannes Yachting Festivalが素晴らしいのは、海上展示が中心で、多くのボートに試乗が可能なこと(事前にディーラーなどを通じての予約は必要だが)。実際に期間中にその場でシートライアルができるため、購入目的のカスタマーや我々のようなジャーナリストが世界中から集まる。特に地中海エリアでポピュラーなボートビルダーの多くは、9月のカンヌに向けて新型艇を建造、マーケットに投入してくる。そのため、まさに最新モデルの見本市&試乗会となる。日本にいると気付きにくいのだが、世界のボート産業にも自動車やファッションと同じようにその年々のトレンドがあり、カンヌは、その年の傾向を占う絶好のチャンスでもあるのだ。ちなみにカンヌへはニース空港からアクセスするのが一般的だが、陸路では約40分〜1時間程度かかる。そのため10分以内に到着可能なヘリコプターを使って訪れるカスタマーも結構いたようだ。港の縁にあるヘリポートには、撮影用ヘリ以外にも相当数のヘリが行き来していた。だいたいそれで客層も窺われるというものだ。

2019年のショーは、例年通りカンヌの旧港であるVieux Port(ヴュー・ポート)を中心に開催されたが、東へ1キロほど離れたPort Canto(ポート・カント)にはセール・ボート(いわゆる日本で言う「ヨット」)が展示された。今回は出展社数542社、638艇という膨大な数のボートが並ぶ。ここ数年の日本のボートショー(Japan International Boat Show)と比べると5倍近い規模だ。ボートだけでなくさまざまなパーツまで含めた219のニューアイテム、122のワールドプレミア発表が行われた。カンヌショーをはじめて訪れた筆者には衝撃の内容だった。セール・ボートがPort Cantoへ移ったため、「昨年よりは広々した配置」とは毎年通っているジャーナリストの弁。そのおかげで今回は、RIBエリア、カタマラン(双胴船)エリアなど艇種ごとに集約されて見やすい配置となった。ヨーロッパでのRIB人気、カタマラン人気を実感した。ちなみにRIBとはリジッドハル・インフレータブルボートの略で、日本では一般に「ゴムボート」と呼ばれているが、一概にゴムを使っているわけではないので専門的には膨張を意味するインフレータブルを使う。リジッドハルとは直訳すれば「固い艇体」、すなわちRIBとはFRP製の艇体(HULL)に膨張体を着けたボートを意味する。筆者が試乗したRIBの一つは全長40フィートクラス、56ノット(103km/h)というモンスター。ゴーグルが欲しくなるほどの強烈な走行性能だが実に愉しい船だった。台風による遅延で取材日程は、かなり狂ってしまったが、私も最終日までに何とか合計10艇に試乗でき、非常に満足の行く取材ができた。

ボートの建造量を比べる場合、世界的には「全長」の合計を単位として比較することが多い。艇数だけで比較するよりも実際の規模を表しやすいからだ。たとえば全長8mのボート5艇を作っているA造船所の場合、5艇とカウントするのではなく合計40m、30mのボート3艇を建造するB造船所は3艇ではなく合計90mと表現する。こうして比較した方が建造実績として分かりやすいからだ。2019年の建造実績を見ると1位はイタリアのAzimut-Benettiの3,535m(101艇)でこちらは20年連続。2位も同じくイタリアのSanlorenzoの3,061m(87艇)、3位はオランダにある超大型ボート中心のFeadshipの1,216m(16艇)となる(※)。上位2ブランドはもちろんカンヌショーにも大々的に出展。近年、特に欧米のプレジャーボートはどんどん大型化しているが、今回のショーでもそれは如実に表れていた。

さて話を日本に戻そう。先ほど触れたAzimut-Benetti社の作る「Azimut」は日本でも人気のブランドのひとつ。これまでに数多いクルーザーが輸入されてきた実績がある。2019年には小型船舶免許で操船可能なぎりぎりのサイズとなるAzimut Grande 25 Metriが輸入されている。お値段、約7億5000万円!!12月上旬に日本ボート・オブ・ザ・イヤーの選考委員向けの試乗会があり、筆者も試乗してきた。日本にもこういうラグジュアリークルーザーがふつうに輸入されるようになったと感心しきり。日本のボートシーンも大きく様変わりしつつある。

※“AZIMUT-BENETTI GROUP IS THE WORLD’S TOP MEGA YACHT BUILDER FOR THE 20TH TIME”Azimut-Benetti社プレスリリースより(2019年12月18日配信)

野村 敦
(のむら あつし)

雑誌編集者を経て自称・自営物書きに。専門分野はプレジャーボート関連。日本ボート・オブ・ザ・イヤー副実行委員長。たまに乗馬、馬術の専門書にも携わる。趣味はサッカー観戦、40年来のLiverpool FCのファン。